顔
二年ぶりに雙津峡の蛍を観に行った。
岩国錦帯橋のかかる錦川の上流、宇佐川と呼ばれる支流に拡がる錦町。現在は岩国市になっているが県有数のワサビの産地として知られてい る。林業を何百年も営んできたこの地域は山また山で、森林が重なり合い、水も澄み、この上ない上質の空気と水に恵まれている。オオサンショウウオの生息地 としても話題になっている。
小さな懐中電灯の明かりさえも邪魔になる蛍の光を支えるのは闇の力。日本全国市街化してほとんど失われてしまった闇がこの地域にはまだ 残されている。真の闇は一つの黒い色ではなく、数多くの黒から成り立っていて、それを黒色と一言で言っていいのか戸惑う。闇はいろんな色が溶け込んでいて 成り立っている闇色とでも言うべきか。
案内の車の光をすべて消すと漆黒の闇。蛍の光の点滅はその闇に支えられ、また闇も蛍に支えられ、温かで、豊かな世界をそこいらに創り出 している。その闇に身を置いて蛍と一緒に息をしていると、人間の角が少しずつ溶かされ平和な顔になっていく。闇と蛍の光に慣れきってくると一瞬足元を照ら す小さな懐中電灯も人工の暴力的な光と感じてしまう。
蛍の光の点滅しか存在しないその闇夜の中で、久し振りに昔から重く沈んでいた何か大きな存在の顔を見たような気がした。
大都会では一晩中、照明が街中を空までも照らし、商業用の音が絶え間なく流れ続けている。インターネットを点ければ世界中の明らかな情報が詳細に発信し続けられている。グローバルという言葉の下であらゆる物が明らかに、鮮明に、しかも平等に扱われている。
余りにも明るく解りすぎて、かえっていろんなことが少しずつ解らなくなってきているのではないか?
そんな方向に人間は何故か更に更に進もうとしている。
闇では見えていたものが、見えなくなっていく。
たまには電気を消してみよう。
2015.6.21. 石井啓一郎
二年ぶりに雙津峡の蛍を観に行った。
岩国錦帯橋のかかる錦川の上流、宇佐川と呼ばれる支流に拡がる錦町。現在は岩国市になっているが県有数のワサビの産地として知られてい る。林業を何百年も営んできたこの地域は山また山で、森林が重なり合い、水も澄み、この上ない上質の空気と水に恵まれている。オオサンショウウオの生息地 としても話題になっている。
小さな懐中電灯の明かりさえも邪魔になる蛍の光を支えるのは闇の力。日本全国市街化してほとんど失われてしまった闇がこの地域にはまだ 残されている。真の闇は一つの黒い色ではなく、数多くの黒から成り立っていて、それを黒色と一言で言っていいのか戸惑う。闇はいろんな色が溶け込んでいて 成り立っている闇色とでも言うべきか。
案内の車の光をすべて消すと漆黒の闇。蛍の光の点滅はその闇に支えられ、また闇も蛍に支えられ、温かで、豊かな世界をそこいらに創り出 している。その闇に身を置いて蛍と一緒に息をしていると、人間の角が少しずつ溶かされ平和な顔になっていく。闇と蛍の光に慣れきってくると一瞬足元を照ら す小さな懐中電灯も人工の暴力的な光と感じてしまう。
蛍の光の点滅しか存在しないその闇夜の中で、久し振りに昔から重く沈んでいた何か大きな存在の顔を見たような気がした。
大都会では一晩中、照明が街中を空までも照らし、商業用の音が絶え間なく流れ続けている。インターネットを点ければ世界中の明らかな情報が詳細に発信し続けられている。グローバルという言葉の下であらゆる物が明らかに、鮮明に、しかも平等に扱われている。
余りにも明るく解りすぎて、かえっていろんなことが少しずつ解らなくなってきているのではないか?
そんな方向に人間は何故か更に更に進もうとしている。
闇では見えていたものが、見えなくなっていく。
たまには電気を消してみよう。
2015.6.21. 石井啓一郎