東京の4年振りの大雪の日は上京していた。
巨大な黒い街を一夜にして真っ白に変え、静かに、途絶えることなく静かに一晩中降り続いた。たっぷり積もって朝を迎えた。一転して快晴。寒い快晴。雪が浄化した空気を突き抜けて強烈な光が積もった雪の上に降り注ぎ、都(みやこ)中が光に満ち溢れている。大都会が美しく輝いている。
雪は一夜にして大都会の醜さを消してしまった。徹して静かに降り積もる雪の夜にも人の様々な営みがあったであろう。見上げて空まで届きそうな樫の大木にも雪はずっしり積もっていたが、大木はこの位の雪ではびくともしない。雪化粧が似合っている。びくともしないだけの大きい根が巨大に地下に張り巡らされているのだろう。根の大きさと頼りがいを感じる。
はるか秩父の雪化粧をした山々も朝陽に輝いている。
山は更に大きな山の根が地中深くしっかりあるのであろう。びくともしない落ち着きと安心感を与えてくれる。山の根っこは地球の奥深く、赤道あたりまで張っているのかもしれない。そう思えば、この山の安心感は納得できる。
何につけ根は大事だ。根がしっかりした物はよく育つ。
風。風にも根があるのだろうか。大木よりも、山よりも風は大きく感じられる事がしばしばある。
風は姿は決して見せずに、木の葉の揺れ、海の波、竹の葉の揺れる音、地球のありとあらゆる物に通じて姿を感じさせてくれるが、見えない。これだけ大きくて偉大なものだから、根はどこかにしっかり生えているのだろうが、考えてもどこか解らない。風の根はどこだろう。
雪の朝陽は遮る物なく、更に強烈にその光と力を増して地球に射し注いでいる。
光が目に眩しくしみる雪の朝。万両の赤い実一つ、雪の合間から見え隠れしている。このどこかにも風の根がありそうな気配を感じた。
その根に響き届くヴァイオリンの一音を出したい。
ドサーッと松の枝から雪が溶けて落ちた。